こみパSS

いくみん編


千堂さんとの出会いは本当に偶然…だった。


幼いころから病気がちだった私はいつも病院のベットの上にいた。
そこでの娯楽といえば兄が買ってきてくれる漫画くらいだけで。
それでも十分だった。漫画を読んでいる時、
私は何にでもなれた。どこにでも行けた。
主人公たちとともに笑い、走り、恋もする。私は漫画が大好きになった。


身体も治りかけたころに同人誌と即売会の存在を知った。
漫画を好きな人たちが集まって、ゲームやアニメをパロディにしたものや
自分で創作したお話を本にして販売しているという。
漫画が大好きな私は、病気が治ったら絶対そこにいこうと決めた。

そして、

初めて訪れた即売会の会場で…私は一冊の同人誌に出会った。
その本は今まで兄に買ってきてもらっていた同人誌とは
なにかが違って感じられた。初々しさと不安が混じったストーリー、
絵からは作者の作品に対する情熱や愛がひしひしとつたわってきて、
本当に良いものだと思った。
さっそくその本を買おうとして売り子さんを探した。男の人だった。
その売り場には値札なんてなくて、
私が本を手にしていたら、彼はうれしいような
どうしたらいいかわからない様子でいて。
そんな雰囲気から、ああ
この漫画はこの人が描いたんだなと思った。
結局500円でその本を買った。
私がその人にとっての一番最初のお客さんだったことが
なぜかうれしかった。


家に帰って何度も読んだ。とてもおもしろかったから
いままでに書いたことはなかったけどファンレターを送ることにした。
あの人は高校生だったから、小学生が書いたような文章じゃ
相手にしてくれないといけないので国語辞典を片手に
一生懸命、大人らしい言葉で書いた。
この人の次の作品が早く読みたかった。期待していた。

けれど、

次に読んだ彼の本は何かがつまらなくなっていた。
絵は上手いのだけど、最初の本に感じた勢いや想いが伝わってこなかった。
ありふれた同人誌の1つというような魅力のない作品。
彼はそれを自信満々の表情で売っていた。今回は1000円の値段をつけていた。
私はそれでも買ったけれど、きっとあんまり売れないだろうなと思った。


読むのがつらかったから、またファンレターを送った。
率直に思ったことを綴った。


それからしばらくして
風の便りで千堂さんが落ち込んでいること、
同人活動をやめるかもしれないことを聞いた。
小学生の私にはどうしようも出来ないことが悔しかった。
その時、私は自分の中に目覚めたある気持ちに気が付いた。


初めはその人の漫画が好きだった。その漫画から彼のひととなりを感じた。
ファンレターを出したりするとまるで千堂さんが
そばにいるような、分かり合えているような気持ちになった。
実際に会ったのはたった2回の即売会だけだけれど、
彼に惹かれたことに時間なんて関係なかった。


千堂さんが高校の文化祭で模擬店を開きその看板を彼が描いたらしい
ということを兄のつてで知った。
聞いたその日が文化祭の当日だったので、あわてて出かけた。

どうしても見ておきたかった。
夕暮れ時で、校舎にひとは少なかったけれど返ってよかった。
看板をみたら一目で千堂さんの描いたものだとわかった。
その絵には誰かのために描いたという想いがいっぱい詰まっていた。
ちょっぴりその絵のモデルの人がうらやましかった。
千堂さんにも会うことができた。クッキーをあげると言ってくれたけど断った。
もうお腹いっぱいいい物を貰ったから。


その夜、励ましのファンレターを書いた。




こみパSS

かずきち編


まさか小学生だったなんて。


大志に勧められてはじめた同人活動だったが、いきなり
ファンレターをもらうとは思ってもいなかった。
熱のこもった感想や的確なアドバイス。俺の作品を心から読んでくれている
ことが手紙から読み取れた。
立川郁美という名前しかわからなかったが、そのひとが
誰であるかは関係なく、俺を支持してくれる読者が一人でもいることがわかって
うれしかった。同人誌を作ってよかった。


次に貰ったファンレターにはもうしわけなさそうに
批判が書き綴られていた。
同人についてリサーチして、売れる要素を盛り込んでいたはずなのに
全く売れなくて俺はへこんでいた。
立川さんならわかってくれるかななんて期待していたが、
みんなの評価と変わらなかった。
同人活動はもうやらないと決めた。


それからは気の入らない生活が続いた。
毎日がなんとなく過ぎていった。
瑞希と一緒に海にいったような
由宇の同人の売り子をしたような
その頃のことはあまり覚えていない。


なぜだか俺が文化祭の委員にされた。
あまり乗り気はしなかったが瑞希も由宇も手伝ってくれるし
気分転換にやることにした。

文化祭の前夜になって模擬店の看板をつくってないことに気が付いた。
しかし、俺はもう漫画も絵も描かないと決めたから。
そうこうしていると瑞希が描くと言い出した。
正直、彼女の画力には不安があったが別にいいやと思った。

描かないと言ったのに俺は看板に絵を描いていた。
瑞希の絵が悪かった訳じゃない。彼女の絵はそれで素晴らしいものだ。
一生懸命に絵を描く彼女を手伝いたいと思った。
我ながら充実した絵が描けたと思った。


立川さんから手紙が届いた。もう同人活動はしていないし
ちょっと不思議に思った。
俺が落ち込んでいたことを知っているらしく
内容は俺のことを心配したものだった。
復活のきざしを感じるみたいな言葉で締められていた。
それが何を指して言ったのかはわからなかったが
俺は同人はやらないと決めたからもうしわけなく思った。


それにしてもいったい彼女はだれなんだろう
そんなことを思うようになった。
本を買ってくれた人は実際少ないから何人か
思い浮かべることはできたが知り合いか子ども、
男性くらいで、その中の誰も違うような気がした。
もしかしたら、自分で本を買った訳でなく、
俺の本を誰かに読ませてもらったのかもしれない。


そして、ある日―俺は立川さんと出会った。


その日は瑞希が大学の説明会に参加するというのでつきそった。
将来のことで悩んでいた俺は、正直瑞希がうらやましく思う。
自分のやりたいことがある。夢がある。それに比べて俺は…。
一時期は大志に誘われ同人誌を作ることに喜びを感じたりもしていた。
しかし今は…もう…。

帰り道での瑞希の様子は少し変だったが、まあ
彼女もいろいろと考えることがあるのだろう。
さて、俺はどうするかな?なんて思いながら歩いていた。

――そんな俺の側を小学生の女の子が駆けていった。
「いくみちゃん。バイバイ。」

えっ?…いくみ?……いくみか。そういえばこんな俺に熱心にファンレターを送って
くれる人の名前も郁美っていったな。まぁこんなところに―――――

―――振り返った俺の前には―――


赤いランドセルを背負った、大きなリボンでツインテールをとめた、
可愛いらしい女の子が立っていた。

「せ…千堂さん……!」
「君が…立川さん?」


俺はその娘を知っていた。
俺の初めてのお客さん。即売会にいつもやってきてくれた。
文化祭の時も見かけた。まさか彼女が立川郁美さんだったなんて…。


それから公園のベンチに座って話をした。
いままでくれた手紙のこと。俺の絵のこと。
…同人活動を止めたこと。

そんな俺を彼女は励ましてくれた。
誰かの為に描いた俺の絵をいい絵だと言ってくれた。
泣きそうな顔で必死に応援してくれた。


俺の同人誌を楽しみにしている人がいる。
それがはっきりとわかった。
そんな人が1人でもいるならもう一度
同人誌を描いてみようと思った。
立川さんがよろこんでくれるようなそんな話を…。


同人誌をつくりながら立川さんのことを考えていた。
熱心なファンだな。という気持ちからだんだん
立川さんのことが気になっていた。
手紙だから性別も年齢もわからなかったけれど
俺を見ていてくれるこの人に興味が湧いた。
女性だとは思っていたが
小学生だと知ったときはさすがに驚いた。
しかし、年齢なんでどうでも良かった。
彼女に会う前にすでに俺は立川さんに惚れていた。


そして俺の新しい本が完成した。




こみパSS

エピローグ


本を読んでもらうために俺は郁美ちゃんを家に呼んだ。
「立川さん、新しい本ができたんだ。感想を聞かせて欲しいんだけど」
「私が最初に読んでいいんですか?」
「もちろん。この話は君の為に作ったんだから、一番に読んでもらいたいんだ」

しばらくの間、彼女は漫画を読んでいた。
真剣に読んでくれているのが伝わってくる。
読み終わった彼女は顔を赤くしていた。
「あの、この漫画にモデルっているんですか?」
「ああ、そういう気持ちで描いたから。それでどうだった?」
「とっても面白かったです。主人公の高校生の気持ちが伝わってきました。ただ…」

それから沈黙が続いた。俺は彼女の言葉を待った。
彼女は恥ずかしそうに顔をあげて言った。

「この話は…千堂さんの気持ちとして受け取っていいんですか?」
「ああ」
「私は子どもだし、千堂さんの周りには可愛い子がいっぱいいるから
私なんかの相手なんてしてくれないんじゃないかって思ってた」
「年齢なんて関係ないさ。俺は立川郁美に惚れたんだから」

ちょっとかっこつけて言ってみた。
「…それで、今度からは作家とファンじゃなくて、
プライベートで会ってもらえるかな?」

「はいっ」

彼女は最高の笑顔で応えてくれた。

「私も、千堂さんの漫画も千堂さんも大好きですから」



和樹が作った本のストーリー…

こみっくパーティーで出会った
駆け出し同人作家と漫画が大好きな小学生の少女との
淡い恋の物語。







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